使い込まれて初めて「完成」する高級革トランクとの出会い

高級鞄と聞いて、みなさんはまず何を思い浮かべますか。

ショーケースに並ぶブランドロゴの施された革製のトートバッグ、バイク乗りの愛用する堅牢なレザーショルダー、アンティーク屋に飾られた趣を感じるトランクバッグ。

人それぞれかと思います。

私は12年前に購入したある鞄を思い、ふと、部屋の一角に目を向けました。

持ち手はピアノを思わせる深い艶のある黒に、バッグは当時のヌメ革からは想像出来ない程に日に焼けて今では光沢のある飴色に姿を変えました。

真鍮製のホックやベルトのバックルは、煌びやかな金属光沢からくすみのある鈍い輝きに変わりました。
長方形のトランク型のカバン。四端の小さな傷一つ一つがこれまでの数多くの記憶を呼び起こします。

10年以上経過しても決してその風格を損なうことなく、むしろ日に日にその魅力を深めていく革のカバン。

購入した当初はプライベートで、今ではビジネスシーンを共に歩む存在となりました。

共に人生を歩み、共に‘’育って’‘きました。

高級な革のカバンの魅力はまさに‘’育つ‘’という部分にあると思います。

使い込まれ、手入れをしながら時間を共に過ごすことで次第に「完成」に近づく革のカバンは、掛け替えのない存在として人生の相棒になること間違いありません。

どうして数年で買い換えられる鞄にしなかったのか。

そう聞かれると、この鞄をオーダーして作ってくださった職人さんの言葉が脳裏をよぎります。

「未完成の完成」
買ってもらう状態は未完成を完成させた状態。使い込まれ、シミが増え、手になじんで初めてその鞄が完成する…

何かを持ち運ぶために鞄の種類や材質を選ぶ必要はありません。実のところ、高級なものにこだわりを持たなければ世の中には沢山の鞄が存在しています。

モノと一緒に生涯を共に歩みたい、一生もの。そう思わせてくれるのが高級な革トランクの魅力なのかもしれませんね。